【名探偵コナン】ベイカー街の亡霊の特徴、制作秘話、脚本への評価など

劇場版

ベイカー街の亡霊とは

2002年に公開された、コナン映画の6作目。
歴代の作品の中では少し異色。

脚本家の野沢尚さんは日本屈指のミステリー賞「江戸川乱歩賞」を受賞するなど脚本家、小説家としてもかなりの実力を持った人。

シリーズ 6作目
公開年度 2002年
監督 こだま兼嗣
脚本家 野沢尚
主題歌 B’z
「Everlasting」
キャッチコピー 「待ってろ…絶対、また逢えっから…」
オリジナルキャラ
  • ヒロキ・サワダ
  • ノアズ・アーク
  • 諸星秀樹
  • トマス・シンドラー など
新登場
興行収入 34億円
英語タイトル Case Closed:The Phantom of Baker Street





あらすじ

アメリカ企業のシンドラー社は、最先端のVR技術を用いた体験型ゲーム『コクーン』を開発。
完成披露パーティには大勢のマスコミ、警備員、政財界の大物親子が集まった。

シンドラー社に出資していた鈴木財閥の令嬢・鈴木園子は少年探偵団5人と小五郎をパーティに招待。
コクーン開発に携わった阿笠博士工藤優作も会場に現れ、晴れやかなパーティを楽しんでいたコナンだったが開発者の樫村が遺体で発見されて――

キーワード

コクーン、VR、人工頭脳(人工知能)、DNA探査プログラム、工藤優作、シャーロック・ホームズ、ジャック・ザ・リッパー、ロンドン

容疑者

トマス・シンドラー
シンドラー社の社長。
日本の教育が肌に合わず、アメリカに移住してきた天才少年のヒロキを養子として育てていた。

ヒロキは両親が離婚している。
親権を持った母親はアメリカに移住した数年後に他界。その後の詳細は不明だが、父親の樫村ではなくシンドラー社長がヒロキを養子にして引き取った。




今作の特徴

良くも悪くも「コナンらしくない」と言われた作品。
日本の世襲制度を厳しく批判するなど、現代社会の風刺も効かせている。

その他、今作では『劇場版名探偵コナン』史上初となる試みを2つ実行。
1つ目は『刑事コロンボ』のように最初から視聴者に犯人を教えておいて、どうやって追い詰めていくか…という推理展開にしたこと。
2つ目は小五郎などの探偵役を用意せず、コナンの姿で事件を解決したこと。
(打ち合わせの時点で青山先生もこれらの挑戦に賛同している。)

当初、青山先生は新一と蘭のラブストーリーをメインテーマにしてほしかったそうだが、今作は「新一と優作」、「ヒロキと樫村」、「世襲を継ぐ子供たち」「犯罪者のDNA」など血縁関係がテーマになっている。

これは脚本家の野沢氏が親子揃って『名探偵コナン』のファンだったことに起因している。野沢氏は劇中で親子の絆を描くことで、この作品を自分の子供たちへのプレゼントにしたかった。
実際に脚本を担当することが決まった際は、「どんな話がいいと思う?」と幼い我が子と一緒に楽しく会話。
『名探偵コナン』が子供向けの作品だからこそ、親から子へ愛情の込められた脚本にしたかった。(このとき「ゲームの中に行っちゃうの、どぉ?」と子供が発言したことがヒントになって、作中のVR技術や100年前のロンドンに繋がった。)

ちなみに青山先生の希望だった新一と蘭のラブストーリーを実現できなかったことが心残りだと、公開後のインタビューで野沢氏は語っている。


しかし公開当初は「こんなのコナンじゃない」「野沢は二度とコナンに関わるな」など、あまりに過激すぎる批判がインターネット上で噴出。
(同人作家が『ベイカー街の亡霊』を貶すだけの"厳しめ"な二次創作を公開したり、批判目的の専用掲示板があったり、ファンサイトに野沢氏への批判が集まるなど。
また、インタビューで野沢氏が「僕は蘭より灰原哀に惹かれる」「次の機会があればコナンと蘭、灰原の三角関係を描きたい」と言ってしまったことで、諸々の過激ファンから「解釈違いだ!」と集中砲火を喰らってしまった。※現在、批判サイトは削除されています。)


個人の心中は誰にも分からないのでこれが直接的な原因になったかは不明ですが、公開の翌々年、2004年に野沢氏は自殺されてしまいました。

制作秘話

今作はストーリーのほぼ全てが野沢氏に一任されている。

野沢氏は江戸川乱歩賞を獲得するほどの実力派の大ベテランで、尚且つ現場スタッフの改変で作品が劣化することを非常に嫌悪する方。それもあってか、ラストシーン(「お前にしては時間がかかったな」「ああ…結構楽しめたよ」とコナンと優作が無言で会話をする場面)などの追加・変更を要望する際、青山先生はとっても緊張したそう。(笑)

ちなみに野沢氏は少年時代からのミステリー好きで、『名探偵コナン』の原作を全て読破しているファン。おまけに自ら諏訪・吉岡プロデューサーに「コナン映画の脚本を書きたい」とアプローチした方なので、個人的には青山先生からの添削は好意的に受け止めておられたのではないかな、と思います。




世間の評価

公開当初は賛否両論の評価で、特に批判意見は辛辣なものだった。
「登場人物(ヒロキや蘭)を自殺させるのはコナン作品のタブー」「ラブコメ推理漫画なのに新一と蘭の絡みが少なすぎる」「コナンが途中で諦めるのはあり得ない」総じて「こんなのコナンじゃない」と、脚本に対する痛烈な批判がインターネット上で相次いだ。

ちなみに「探偵が推理で追い詰めた犯人を自殺させること」が原作7巻(浅井成実の月影島事件)以降のタブーであって、事件の関係者が過去に自殺していることは原作でも割とよくある。
また、蘭の投身自殺シーンは映画スタッフが行なった追加編集であって野沢氏、青山先生のアイデアではない。


一方で斬新かつ秀逸な脚本を絶賛する声も多く、興行収入34億円と2002年の邦画では2位、コナン史上でもトップクラスの興行収入を誇った。(この記録は第13作『漆黒の追跡者』まで塗り替えられることはなかった。)
また、2006年には諏訪プロデューサーが「コナン映画の金字塔」として今作を絶賛するなど、製作陣にも愛されていた模様。

さらに公開から月日が経った今となっては、時代の流れもあってネット上の評価も大きく変化。

VRやAIなど当時は非常に珍しかったSF要素をコナンに取り入れる斬新さ、「親子の絆」と「子供の成長」をコクーン(繭)を用いて表現する文学的な美しさ、ストーリーを崩さずに『名探偵コナン』と『シャーロック・ホームズ』を融合させる力量など、脚本に対する純粋な高評価が批判よりも目立つようになった。
また、視聴者アンケートで決まる「好きな歴代作品ランキング」で上位にランクインするなど、公開から時を経た近年の方が傑作として名高い。

ちなみに野沢尚先生が最後に手掛けた映画がこの『ベイカー街の亡霊』。
野沢氏は他にも「坂の上の雲(原作:司馬遼太郎)」「砦なき者」「その男、凶暴につき(監督:北野武)」などの脚本を手掛けている他、個別に城戸賞、江戸川乱歩賞、芸術選奨文部科学大臣賞などを獲得している。




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Posted by HAGA